現在、衛星測位システムを整備、運用している国は以下の計6か国である
- 米国(GPS)
- ロシア(GLONASS)
- 欧州(Galileo)
- 中国(BeiDou)
- インド(NavIC)
- 日本(QZSS)
各国とも、現行のサービスを提供するために必要な衛星数を維持、更新している。
それぞれ、次世代機への更新が進められている。
各国のシステム整備状況、次世代システムの更新及び開発計画の概要をまとめた。
米国(GPS)
最大32機の6種類の異なる軌道平面の中地球軌道衛星によって構成されている。
GPSは、世界中で最も普及している衛星航法システムである。
次世代衛星(Block-IIIF)は、2018年に22機の製造をロッキードマーチン社と契約し、開発に着手している。
2026年に初号機を打ち上げる計画となっている。
信号構成や、電力配分、変調方式などを軌道上で変更可能なデジタルペイロードとなっている。
有事の際の作戦エリアへ100倍の送信電力でMコード信号を送信する耐ジャミング性能向上や、
衛星間通信リンクを用いた即時アップリンク機能の追加、原子時計の性能向上、
レーザ反射鏡、SAR(Search And Rescue)ペイロードの追加等を行う予定である。
新規開発技術の一部は2022年に打上げ予定のNavigation Technology Satellite(NTS)-3で実証される。
ロシア(GLONASS)
2010年9月までに24基の衛星を打ち上げ、2011年には全世界で測位可能となっている。
現在は測位精度を高めるためにGLONASSとGPSを併用する受信機が登場している。
Kシリーズより、CDMA(符号分割多元接続)信号の追加(L3信号)を開始している。
原子時計の改良などを実施、地上システムの監視局のロシア国外への設置の促進、軌道クロック推定ソフトウェア改修などを行っている。
また、SIS-URE(Signal-In-Space User Range Error;衛星の軌道・時刻に起因するユーザ視線方向の誤差)の性能向上を図っている。
さらに改良を加えたK2衛星の打上げも2021年から開始されている。
K2シリーズ最初の2機の衛星は、L1、L2帯にもCDMA信号を追加している。
従来のFDMA(周波数分割多元接続)信号とは別アンテナから送信するもので、、
2023年以降に打ち上げられるK2衛星は、共通のアンテナからFDMAとCDMAの全信号を送信する。
また、高緯度地域をカバーし、高精度な補強情報配信(PPP方式向けの精密軌道クロック補正)を行うため、準天頂衛星同様の傾斜地球自転同期軌道(IGSO: Inclined Geo-Synchronous Orbit)の高高度GLONASS-V衛星6機を2025年より打ち上げる計画がある。
中国(BDS)
BeiDouや北斗ともいわれる。北斗衛星導航系統(英語: BeiDou Navigation Satellite System、北斗衛星測位システム)という。
中華人民共和国が独自に展開している衛星測位システム(GNSS)である。
2012年12月27日にアジア太平洋地域での運用を開始。2018年12月27日、全世界向けのサービス開始を発表した。
2020年6月23日、最後の55基目の北斗用人工衛星(2000年の試験衛星からでは59基目)が打ち上げられて衛星軌道投入に成功し、完成した。
第3世代衛星群は、実証衛星を用いて実証した国産原子時計(ルビジウム、水素メーザ)や、
デジタル化された新信号生成器、衛星間測距装置を搭載し、高性能化を実現している。
今後は第3世代衛星の軌道上バックアップ機を追加し、33機ないし35機の衛星でサービス提供を行う予定になっている。
PPP補正情報配信については、将来的に中国及び周辺国向けにPPP-RTKサービス(電離層、対流圏遅延補正の追加)、
MEO衛星によるグローバルPPPサービスへの拡張の計画がある。
ICGでの発表によれば、中国政府はBDSをコアに、屋内、水中などでも利用可能なユビキタスPNTサービスを、地上ネットワークや他のセンサも利用して実現する構想を持っている。
欧州(Galileo)
米国依存からの脱却のため、当時のヨーロッパ共同体とヨーロッパ宇宙機関で開発を開始した。
24機の中地球軌道の衛星によって構成され、2016年に全地球サービス開始している。
2014年頃に検討を開始した第2世代システムでは、ユーザ測位性能向上、システム維持運用コスト低減を目標として開発している。
オンボードアンサンブルクロックや、水素メーザ原子時計の小型軽量化、光時刻標準、衛星間測距・通信機器、電離層遅延予測、EWS、IoT機器をターゲットにしたユーザ受信機の低消費電力化に有用な新信号等に関してESAや欧州各国の宇宙機関、さらにはEUの研究開発ファンドである「Horizon 2020」の枠組みを利用した研究開発が進められている。
第2世代の衛星群は、2024年の年末に試験衛星から打上げを開始、2030年に初期サービス、2035年に次世代システムの配備を完成する計画である。
第2世代衛星は、第1世代衛星よりも大型、大電力化が図られ、最大2トン、発生電力は第1世代の3~4倍、設計寿命も12年から15年に拡張され、電気推進、衛星間通信機能が実装されている。6個の原子時計を搭載、アンサンブルクロックを構成するとともに、うち1個は次世代に向けた実験用の原子時計を搭載する予定となっている。
インド(NavIC)
2013年7月1日に最初の1基がIRNSS-1Aとして打ち上げられた。2016年4月28日に7基全ての軌道投入を完了した。
今後、IGSO衛星4機を追加して11機にコンステレーションを拡張し、
軌道上バックアップと幾何学的配置改善によるサービス性能向上を行う計画がある。
次世代衛星に向け、原子時計国産化に取り組む他、他のGNSSとの相互運用性が高いL1帯(中心周波数1575.42MHz)への新信号追加などの機能性能向上も計画されている。
日本(QZSS)
準天頂衛星システム(英語: Quasi-Zenith Satellite System、QZSS)は、日本及びアジア太平洋地域向けに利用可能とする航法衛星システムである。
全地球を対象とするGPSと異なり、局地的な位置情報サービスを目的とするために準天頂軌道を周回する人工衛星を利用する。
内閣府の特別の機関である宇宙開発戦略推進事務局が構築したシステムで、2010年9月11日に準天頂衛星初号機みちびき (QZS-1) を打ち上げた。
2017年に衛星3機を追加で打ち上げて4機体制でシステムの運用を開始し、2020年に初号機後継衛星1機、2023年に衛星3機、をそれぞれ追加して7機体制で運用する予定となっている。
その他
現在、衛星測位システムを運用中の上記6ヶ国に加えて、韓国がKPSと呼ばれる7機の衛星で構成される地域衛星測位システムの構築を計画している。
2018年2月5日に国家宇宙委員会で制定した第三次宇宙開発推進計画に2035年までに韓国独自の地域衛星測位システムを整備することが記載されており、
2027年までに初号機を打ち上げて実証を行った後、2034年までに残り6機を打ち上げて初期サービスを開始する計画となっている。
また、EUを離脱した英国は、2020年9月24日に、Space-Based Positioning, Navigation and Timing Programme (SBPP)を開始し、従来のMEO衛星ベースのGNSSにとどまらず、より広範な測位技術、複数軌道衛星の活用も選択肢として、英国のクリティカルインフラや防衛のための国外システムに依存しない独自の衛星測位インフラの検討を行うことを公表している。
英国政府は、2020年7月に破産した低周回衛星コンステレーション移動体通信事業者であるOneweb社をインドの通信事業者とともに買収しているが、Oneweb社の第2世代衛星に測位ペイロードを搭載することもSBPPで行う検討の選択肢に含まれている。
まとめ
米国のGPS以外にも各国で衛星測位システムの開発が行われている。
しかし、依然としてほとんどのサービスで基本となるのはGPSでほかの衛星システムは補完、完全性のために使用される程度である。(国主導のサービスやシステム以外では主となるシステムでGPSを使用しているものは少ない)
なので、日本のQZSSも含めGPSの補完と仮にGPSが使用できない状況になっても多少精度が落ちても測位システムが維持できるような利用になっているように思われる。
数多くの衛星測位衛星が打ちあがっている現状、測位システムだけでは安全保障の面以外では国独自で開発の意義は薄くなっている。
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