QZSSシステムの9個のサービス

衛星測位
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QZSSのサービスは、GPSを補完・補強する2つのサービスを有している。

GPS補完サービスは、準天頂衛星を利用して米国が運用するGPSと組み合わせることで衛星の測位配置を改善する。
準天頂衛星の衛星の測位計算使用による都市部や山間部における測位可能エリア・時間を増大させる。
また、GPS近代化相当の民生用測位信号(L1C/A信号、L1C信号、L2C信号及びL5信号)を送信して、測位精度の向上する。

GPS補強サービスは、L1-S信号、L5-S信号及びL6信号をQZS衛星から測距補正情報を送信する。
測距補正情報を使用し高精度化、ヘルス情報の通知や故障判定による高信頼性化する。
また、GPS衛星の捕捉支援情報等をユーザへ通知することで、ユーザの利便性の向上に寄与することができる。

現在のQZSSシステムのサービスは以下の9個ある。

  1. 衛星測位サービス
  2. サブメータ級測位補強サービス
  3. センチメータ級測位補強サービス
  4. 高精度測位補強サービス「MADOCA-PPP」
  5. 測位技術実証サービス
  6. 災害・危機管理通報サービス「災危通報」
  7. 衛星安否確認サービス「Q-ANPI」
  8. 公共専用サービス
  9. SBAS配信サービス

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衛星測位サービス

衛星測位サービスはGPSを補うGPS補完サービスである。
みちびきから送信するGPSと同一周波数・同一時刻の測位信号を利用する。
GPSと一体となって使用し、安定した測位をすることができるサービスである。
衛星測位の主な誤差要因である以下の2つの誤差を改善する。
(1)衛星数が少ないことによる誤差
(2)電離圏による誤差

(1)衛星数が少ないことによる誤差


a)マルチパスによる誤差
マルチパスとは、電波がまっすぐに届くだけでなく、山やビルなどに反 射して、複数のルートで伝播すること。
反射した電波は、衛星から一直線に来る信号より受信機に到達するまでに時間がかかることから「距離が遠い」と計測される。
そのため、衛星測位においては、正確な測位を乱す要因となる。
高仰角から発信される測位衛星の電波は、反射波が遠くまで届かないことからマルチパスが起きにくく、全体の測位誤差を改善することができる。
測位に使用する衛星数が多い場合には、高仰角の衛星が含まれるため、測位誤差を改善できる。

b)衛星配置による誤差
衛星測位を行う場合、上空の人工衛星がなるべく広い範囲にまんべんなく配置されていると測位精度が良くなる。
上空にある衛星の配置バランスの度合いを DOP(Dilution of Precision)と呼ぶ。
水平位置については、低仰角の衛星が含まれると良くなる。

c)衛星数を増加させる対策
a)b)の測位誤差を改善するためには、より多くの衛星が見えることが望ましい。
しか、GPS衛星は世界中で利用しているため、各地点で見える衛星数は十分ではない場合がある。

みちびきは、GPSと同じ測位信号(L1C/A、L2C、L5)を送信し、GPSと時計を同期させるため、GPS衛星が増えたものとして利用することができる。
準天頂軌道の衛星は日本付近からは仰角20度以上に約16時間留まる。
そのため、みちびきの4機体制により、GPS衛星とあわせてこれまで以上の数の衛星が見えるようになる。
マルチパスと衛星配置の誤差を改善し、ビルや樹木などで視界が狭くなる都市部や山間部でも、測位の安定性が向上する。

(2)電離圏による誤差
測定誤差のうち、最も大きな部分を占めるのは、電離圏による電波遅延である。
電離圏は、上空100~1000km付近にある電気を帯びた大気の層で、衛星からの電波が電離圏を通過するときに速度が遅くなる。
電波到達が遅れるため、衛星と利用者の間を実際よりも長い距離と計算してしまい、誤差になる。

a)複数波の信号による電離圏誤差の改善
電離圏による電波の速度遅延は、電波の周波数に応じて異なる。
この性質から、電離圏での遅延による誤差は、「1つの衛星」から発せられる「複数の周波数の電波」を同時に受信して計算することで推定できる。
複数の周波数で信号を発することができる衛星を利用することで誤差を改善することができる。
GPS衛星やみちびきの場合には、L1C/A信号と組み合わせてL2C信号やL5信号を利用することにより、電離圏誤差が改善する。

b)1周波の信号による電離圏誤差の改善
2周波を使用する受信機は1周波のみを使用する受信機に比べ高価である。
当面の間は1周波受信機も広く使われることを想定している。
1周波受信機向けの電離圏補正としては、標準の測位信号であるL1C/A信号で配信している「KLOBUCHARモデルパラメータ」を利用する。

KLOBUCHARモデルとは電離圏の状況を方程式で近似したものである。
その方程式のパラメータ数値を軌道情報などと合わせて測位信号で送信し、利用者は電離圏誤差を補正することができる。
みちびきだけでなくGPS衛星からも米国が計算したパラメータ数値が送信されている。

GPSの場合には地球全体を1つの方程式で近似している。
それに対し、みちびきでは「東南アジア・オセアニア地域」と「日本付近」の2種類のパラメータを作成して送信している。
近似式であるため、対象領域が狭くなるほど精度が向上する。
そのため、日本付近や東南アジア・オセアニア地域では、みちびきが送信する「KLOBUCHARモデルパラメータ」を使用することで測位精度が向上する。


サブメータ級測位補強サービス

衛星測位による誤差を減らすため、電離圏遅延や軌道、クロック等の誤差の軽減に活用できる情報(サブメータ級測位補強情報)をみちびきから送信する。
衛星測位の誤差の大きなものは、(1)衛星数が少ないことによる誤差、(2)電離圏遅延による誤差がある。
サブメータ級補強情報で改善できる主な誤差は電離圏遅延となる。

電離圏遅延による誤差は、2周波受信機を利用することで解消できるが、現状の2周波受信機はまだ高価である。
既存の1周波受信機を改良して利用することが望まれている。
サブメータ級補強を送信するL1S信号は、一般に利用されている測位信号であるL1C/A信号と同じ形式の電波である。
既存の受信機を改良することで受信することが可能である。(主にソフトウエアの改修で可能)

一般に、GPSなどによる1周波の衛星測位では、誤差は10m程度になると言われている。
サブメータ級測位補強により、誤差1mで測位を行うことが可能となる。

また、補強情報を送信するみちびきだけではなく、補強対象となる測位衛星(GPS又はみちびき)が見えている必要がある。
このため、見える測位衛星の数がビルの谷間などで少なくなった場合には、規定の精度が出ない場合がある。

携帯電話の測位機能については、携帯電話基地局から独自の補強信号を送信している。
このため、携帯電話でサブメータ級測位補強を利用する場合には、山間・海上部、災害時などで圏外になった場合の利用が中心になる。


センチメータ級測位補強サービス

高精度な衛星測位を行うため、国土交通省国土地理院が全国に整備している電子基準点のデータを利用する。
電子基準点のデータを用いて補正情報を計算し、現在位置を正確に求めるための情報(センチメータ級測位補強情報)をみちびきから送信する。
センチメータ級測位補強を送信するL6D信号は、GPSから配信している信号ではないため、専用の受信機が必要になる。

このサービスは、測量、情報化施工(建設機械を高精度に操作して施工する手法)、IT農業(農機を高精度に操作して農地管理をする手法)での利用を想定している。
L6D信号を受信することができる端末で利用することができる。
また、搬送波測位という測量技術による手法を用いる。
アンテナや受信機のサイズは大きくなることから、モバイル機器ではなく、測量機材としての利用や車載での利用を想定している。

センチメータ級測位補強では、測量の技術を使用する。
そのことにより、誤差数cmで測位を行うことが可能となる。
ただし、基準となる経緯度座標の方が昔の測量技術で決定されている場合には、精度の高い経緯度座標が求められるとは限らない・、
地球中心座標として高精度な測位補強を行うことができる。

なお、衛星を経由するため、補強情報を作成してから送信するまでの間には十数秒のタイムラグがある。
急な電離層擾乱などの際には、補正が間に合わずに測位結果が乱れる可能性がある。
このため、車載で利用する場合には工事現場や農場のような限られた領域内での利用、又は三次元計測のように後処理による利用を想定している。


技術実証


センチメータ級測位補強サービスのアジア太平洋地域への展開等を想定している。
L6信号には、実証実験向けのL6Eチャンネルが用意されている。
みちびき初号機後継機と2~4号機を使用してセンチメータ級測位の技術実証を行っている。


高精度測位補強サービス「MADOCA-PPP」

アジア・オセアニア地域でも利用可能な高精度な測位補強サービスを提供する。
国内外のGNSS監視局網の観測データに基づき測位衛星に起因する誤差を計算し、みちびきのL6信号により補正データを送信する。
ユーザはL6信号対応受信機を用いることでPPP方式の高精度測位を行うことができる。

これまで本サービスの実証信号を送信し、すでに自動運転、情報化施工、IT農業等のさまざまな分野の実証実験で活用されている。
また、本サービスの補強データはアジア・オセアニア地域で広く利用することができる。
国外や海洋分野でのさまざまな活用が期待される。
今後、2022年9月30日より試行運用開始、2024年度より本運用開始を予定している。

測位以外の用途として、大気中の水蒸気量の推定に活用することで、天気予報の精度向上に効果が期待される。
補正データに含まれる高精度な時計誤差情報は、精密な時刻同期が必要な分野での活用が期待される。

本サービスで採用しているPPP測位方式は、高精度な測位結果を得るために20~30分程度の事前観測が必要とされる。
この観測時間を短くするため、7機体制では、追加の補正データとして広域電離層データもみちびきのL6信号で送信する予定である。


測位技術実証サービス

衛星測位の技術は完成されたものではなく、みちびきが4機体制になった後でも技術開発は継続して行われる。
このため、新たな高精度測位技術を開発して、その技術を実用化するために実際の衛星で検証を行うことが必要である。
みちびきでは、実証を行うための測位技術実証のサービスが用意されている。

衛星からのデータは、L5信号と同じ形式であるL5S信号の受信機で利用することができる。


災害・危機管理通報サービス「災危通報」

防災機関から発表された、地震や津波発生時の災害情報など、危機管理情報について、みちびき経由で送信するサービス。
このサービスは、サブメータ級測位補強サービスと同じくL1S信号を使用し、4秒間隔で災害情報などを送信する。

電源のある屋外設備(街灯、サイネージ等)や移動体(カーナビなどの車載機器等)での利用を想定している。
災害時には受信した災害情報等を音声や表示で通知することができる。
これにより、山間部などの通信網の脆弱な地域や地上インフラの被災により通信が途絶した状況においても災害情報などを迅速に伝えることができるようになる。

現在、災危通報では、気象庁が提供している防災気象情報を独自フォーマットに変換し送信している。
災危通報は東南アジアやオセアニア地域でも受信することができる。
そのため、気象庁が発表した遠地地震、北西太平洋津波情報など国外の情報も送信している。
また、災危通報で配信している情報をSNSでも配信する。
災危通報でどのような情報が配信されているかを手軽に確認することができる。


衛星安否確認サービス「Q-ANPI」

衛星安否確認サービス「Q-ANPI」は、災害時における、避難所の情報をみちびき経由で管制局に送信し、収集する手段として利用できる。
みちびきのうち、静止軌道に配置している衛星で利用することができるサービスである。
「Q-ANPI」に対応したS帯の端末で利用することができる。
ただし、このサービスは日本国内及び沿岸部限定のサービスである。

災害時においては、衛星経由で避難所の位置や開設の情報及び避難者数や避難所の状況を通知する。
被災状況や孤立した状況の把握など、救難活動に不可欠な情報を伝える。
また、収集した情報から近親者を検索することもできる。


公共専用サービス

ジャミング(測位信号への妨害電波)、スプーフィング(偽測位信号の送信)を回避することを目的として、
政府が認めた利用者だけが使用できる秘匿・暗号化された信号を配信するサービスである。


SBAS配信サービス

みちびきの静止軌道衛星を用い、航空機などに対して測位衛星の誤差補正情報や不具合情報を提供するSBAS(衛星航法補強システム)信号を配信するサービスである。
SBAS(L1Sb)信号に対応した受信機で利用することができる。

SBAS信号は日本以外にも北米、欧州等で配信されており、航空機向けのシステムとしてそれぞれの国の航空安全当局から認証され運用されている。
SBASを利用することにより、航空機の位置が正確に求められるため、安全で効率的な飛行経路の設定が可能となっている。

日本においては、これまでSBAS信号を国土交通省の運輸多目的衛星(MTSAT)から配信していた。
しかし、2020年4月よりみちびきのSBAS配信サービスを利用して国土交通省が作成したSBAS信号をみちびきの静止軌道衛星から配信中である。


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